【司法書士が解説】相続放棄の注意点。メリット・デメリット、手続きについて

相続放棄とは?

相続が開始し、さまざまな手続きをしていく中で「相続放棄」という言葉をお聞きになると思います。

このとき注意しなくてはいけないのは、「相続放棄」という言葉は一般的に2つの意味で使われていることです。

この2つの意味を混同していると、手続きを間違えたり、適切な対策が取れなかったりと、大きなミスを招く可能性がありますので、まずは2つの意味をしっかり確認しましょう。

相続放棄 2つの意味

一般的に「相続放棄」は、次の2つの意味で使われています。

1. 単純に「相続財産はいらない」という意味

相続人ではあるが、他の相続人が全ての財産を取得することを容認するという意味です。

手続きとしては、相続人全員で遺産分割協議をして「特定の相続人が財産を取得する」という内容の遺産分割協議書を作成し、実印を押印したうえで印鑑証明書を付けます。

裁判所や役所は関与せず、また、財産は取得しなくても相続人である地位は失いません。

一般的に使われている「相続放棄」は、こちらの意味であることが多いと思います。

2. 家庭裁判所で相続放棄の「手続き(申述)をする」という意味

こちらが法律上の「相続放棄」です。

家庭裁判所にて手続き(申述)をし、受理されると相続人としての地位も無くなるので、相続関係から完全に離脱します。

弁護士や司法書士などの専門家が使う「相続放棄」は、ほぼこちらの意味と捉えてください。

民法第938条
相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

このページで説明しているのは、この2の「相続放棄」です。

相続放棄の効果

家庭裁判所で相続放棄の手続きを行うことで、相続関係から離脱します。

民法第939条
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

相続人でなくなるので、相続人としての権利を失い、義務も無くなります。

相続放棄の手続き

手続きの期間

相続放棄の手続きは、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に行わなければなりません。

民法第915条
1. 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2. 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。

特別な事情があれば期間が伸びたり、3か月を過ぎている場合でも受理されることはありますが、できるだけこの3か月以内に手続きしましょう。

3か月は、あっという間に過ぎてしまいます。専門家へ相談する場合は、できるだけお急ぎください。

必要書類

相続放棄に必要なのは、▶相続放棄申述書[裁判所]と以下の書類です。

  1. 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
  2. 申述人(放棄する方)の戸籍謄本
  3. 被相続人と申述人の関係が分かる戸籍・除籍・改製原戸籍

申述に必要な費用

  1. 収入印紙800円分(申述人1人につき)
  2. 連絡用の郵便切手 ※1

※1 詳しくは申述先の家庭裁判所にご確認ください。
なお、▶各地の裁判所一覧[裁判所]の「裁判手続を利用する方へ」などに掲載されている場合もあります。)

相続放棄 3つのメリット

相続放棄のメリット1. マイナスの遺産を相続しなくて済む

これが最大のメリットです。特別な理由が無い限り、遺産がマイナスのものしかないような場合は、相続放棄をすると負の遺産を相続せずに済みます。

逆に、相続財産が債務超過でない場合は相続放棄を利用するのか、より慎重にご検討ください。

相続放棄のメリット2. 遺産分割協議に参加しなくて済む

遺産の取得を望まない場合でも、相続放棄をしなければ相続人の地位は維持されるので、遺産分割協議へ参加して、署名や実印を押印するなどの手続きに参加するよう求められることがあります。

家庭裁判所で相続放棄の申述をして受理されれば相続人でなくなるので、遺産分割協議に関与する必要がなくなります。

相続放棄のメリット3. 揉め事や各種相続手続きに関わらなくて済む

例えば、あまり関わりの無かった親族が亡くなり、思いがけず相続人になった場合に、被相続人がどのように生きていたのかわからず、他の相続人も知らず、また賃貸住宅の解約などのさまざまな後処理が残されている場合があり、突然請求が来たり、役所などから連絡が来たりすることがあります。

このように財産がプラスかマイナスかわからないが、とにかく全てにおいて関わりたくないという場合も相続放棄が有効です。放っておくとどのような責任が発生するか分かりませんので、相続関係から離脱したい場合は相続放棄をご検討ください。

 

相続放棄 3つのデメリット

相続放棄のデメリット1. プラスの財産も相続できない

相続放棄は相続人でなくなる手続きですので、マイナスの財産を引き受けなくて済む反面、プラスの財産についても一切の権利が無くなります。プラスの財産も多くある場合は、慎重に検討しましょう。

相続放棄のデメリット2. 新たな相続関係が発生する

例えば被相続人の子どもが全員相続放棄をすると、その子どもたちは相続関係から離脱し、被相続人に最初から子どもがいなかったのと同じ状態となります。その結果、被相続人の兄弟姉妹が新たに相続人となります。

マイナスの財産が多く、そのため相続放棄をする場合は、自らが相続放棄することで新たに相続人となる方(この場合は叔父や叔母)に連絡して、全員が放棄できるように協力しながら手続きを進めることが一般的です。

 

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相続放棄のデメリット3. 撤回できない

相続放棄は、撤回できません。

民法第919条1項
相続の承認及び放棄は、第915条第一項の期間内(熟慮期間内)でも、撤回することができない。

例えば、上記2のように新たに相続人となった者が借金を返済するなど、相続人としての義務の履行を既にしている場合、「借金が無くなったなら、やっぱり撤回して自分が相続人になります」という訳にはいきません。

相続放棄により新たな権利義務関係が発生し、それに従いさまざまな関係者が動くことになります。新たな相続人や債権者、関係者等にも被害が及びますので、第三者を巻き込むような撤回はできないとお考えください。

ただし、申述が受理される前の撤回や、民法に定められた取消し事由(詐欺・脅迫により放棄した場合や未成年が法定代理人の同意を得ていない場合など)により取り消すことは条文上可能ですが、なかなかハードルは高いようです。

不動産や自動車がある場合の注意点

「相続放棄は相続関係一切から離脱できる」と説明してきましたが、必ずしもそれだけでは完結しない場合があります。

 

民法940条1項
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

例えば賃貸住宅であれば保証人などが後始末をすることになるでしょうし、ローンの残った自動車などは所有権を留保していたローン会社が引き上げると思いますが、被相続人が完全に所有していた不動産や自動車の場合、相続放棄したからもう知りませんでは通用しない場合があります。

自分が相続放棄をした後、まだ他に相続人が残っていれば、その相続人に全てまかせて問題ありませんが、相続放棄によって相続人がいなくなった場合、残された不動産や自動車を管理する義務が相続放棄をした者に発生することがあります。

明確な決まりはありませんが「自己の財産におけるのと同一の注意」を持って管理することになり、新たな相続人が現れるか、相続財産管理人の選任を申し立てて、管理人が就任し引き渡すまで続く恐れがあります。

相続放棄は早めに手続きや相談をしましょう!

相続放棄には強力な効果があり、特にマイナスの財産が多い場合に非常に有効な手段です。

その分、波及効果は大きく、慎重に判断しなければならない点が多くあります。

一方で熟慮期間は3か月と短く、急いで判断して手続きしなくてはならないという特性があります。

「相続放棄したほうが良いのかもしれない…」と思われた場合は、早急に専門家へご相談ください。

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